母語干渉(言語転移)ってなに?発音編 – 日本語話者に見られる典型的な発音の誤りとは?

Pronunciation
Articles

母語干渉とは?

 語学学習における「母語干渉(ぼごかんしょう)」とは、自分の母語(第一言語)の影響が、学習している外国語(第二言語)の習得に影響を与えることをいいます。とくに、母語の文法・発音・語順・語彙の特徴がそのまま外国語に持ち込まれてしまい、誤りにつながることが多いです。

 英語を学んでいる日本語話者が陥りやすい「母語干渉」の例は、文法・語順・発音・語彙・文化的表現など、さまざまな面に現れます。

発音の干渉

発音の置き換えや混用

日本語にはない音を正確に発音できず、近い音で代用してしまう。

 これは、発音の似ている子音や母音の混用によって起こります。日本語には存在しない音が英語には多く含まれており、それを日本語にある音に置き換えてしまうことで、通じにくかったり意味が変わってしまうことがあります。

子音の混用の具体例

  • /s/ と /ʃ/(「ス」と「シュ」の区別)
    see → 「shee」に近く聞こえる
    she → 「see」に聞こえる
  • /θ/(無声音)と /s/、/t/ の混用
    think → 「sink」や「tink」と聞こえる
    three → 「sree」や「tree」になる
  • /ð/(有声音)と /d/ や /z/ の混用
    this → 「dis」
    brother → 「brozar」
  • /v/ と /b/(日本語には /v/ の音がない)
    very → 「bery」
    vote → 「boat」と混同される
  • /l/ と /r/(日本語の「ら行」がこの2つの中間音のため)
    lightright の区別がつかず、誤解される
    play → 「pray」と混同される

母音の混用の具体例

  • /ʌ/ と /æ/, /ɑː/
    cup(/kʌp/) → 「cap(/kæp/)」や「cop(/kɑːp/)」と聞こえる
    → 意味が「カップ」から「帽子」「警官」に変わることもある
  • /ɔ/ と /oʊ/(open o と二重母音)
    caught(/kɔːt/)と coat(/koʊt/)の区別がつかない
    → 前者は「捕まえた」、後者は「上着」
まとめ: 混用しやすい組み合わせ

/s/ – /ʃ/ – /θ/
/ð/ – /d/ – /z/
/v/ – /b/
/l/ – /r/
/ʌ/ – /æ/ – /ɑː/
/ɔ/ – /ou/

音節の追加(母音の挿入)

余分な母音の追加によって、音節の数の増えてしまう。

 これは日本語話者が英語を発音する際によく見られる母語干渉の一種です。日本語は「子音だけ」の音がなく、すべての音節が母音(a, i, u, e, o)を伴うため、英語の発音に余計な母音(特に「う」「お」など)を加えてしまうことがあります。その結果、英語の単語より音節が増えてしまう現象が起きます。

余計な母音によって音節が増える例

英単語正しい発音日本人によくある発音音節数の変化
desk/desk/(1音節)desu-ku(2音節)1 → 2
club/klʌb/(1音節)ku-ra-bu(3音節)1 → 3
stop/stɑp/(1音節)su-to-pu(3音節)1 → 3
street/striːt/(1音節)su-to-ri-to(4音節)1 → 4
milk/mɪlk/(1音節)mi-ru-ku(3音節)1 → 3
text/tɛkst/(1音節)te-ku-su-to(4音節)1 → 4

子音の連続が苦手(consonant clusters)

 余計な母音が増えてしまう原因の一つは、英語には日本語にない「子音の連続」という発音があるためです。
 日本語では子音が連続することがあまりないため、cl, tr, sp, st, str などの発音が難しく、母音を入れて分けてしまう間違いが多く起こります。

  • street → 「su-to-ri-to」
  • spring → 「su-pu-ri-n-gu」
  • drink → 「do-ri-n-ku」や「du-ri-n-ku」

強勢(ストレス)の誤り

日本語は高低アクセントで、英語のような強弱アクセントではないため、平板に聞こえてしまう。

 日本語は高低アクセント(pitch-accent)の言語であり、英語のような強弱アクセント(stress)を持つ言語ではありません。そのため、日本語話者が英語を話すと、単語や文が全体的に平板に聞こえてしまうことがあります。

 また、日本語は音節ごとに均等なリズムで発音されますが、英語は強勢リズムと呼ばれ、内容語(名詞・動詞・形容詞など)に強いアクセントが置かれ、機能語(前置詞・冠詞など)は弱く発音される傾向があります。これにより、英語特有のリズムや抑揚が生まれます。

  • banana([ˈbænəˌnɑː])→ 「バナナ(全部同じ強さ)」
    → 第1音節 BA に強勢が来るべきだが、日本語話者は3音節すべてを均等に発音してしまう。
  • important([ɪmˈpɔːrtnt])→ 「インポータント」と平坦に発音
    → 実際には pɔːr にストレスが置かれ、残りの音節は短く・弱く発音される。

 このように、英語の強勢の位置を間違えると、聞き取りにくくなったり、意味が伝わりにくくなったりします。場合によっては、ネイティブにとって全く別の単語に聞こえてしまうこともあります。

ピッチ・イントネーションの違い

 日本語はモーラ拍(一定のテンポ)で発音され、音の高低で意味が変わる言語(高低アクセント言語)。
 一方、英語はストレスとイントネーションの抑揚が意味や感情を左右する。

  • 日本語話者が英語を話すと、平板で感情がこもっていないように聞こえることがある
  • 質問文が上がらない(rising intonation)ため、疑問として伝わらない

音の連結の欠如

英語特有のリエゾン・音の連結が再現できない。

 英語では単語が滑らかにつながって発音されるが、(例:“What do you want?” → “Whaddaya wan?”)日本語話者は単語をひとつずつ区切って発音しがちになる。

  • I want it. → 「アイ・ウォント・イット」
    → ✅ 自然な英語では「アイウォニッ(ト)」のように聞こえる

タイトルとURLをコピーしました