【不思議な英単語】Virtual の本来の意味とは? – 「仮想」と「現実」のどっち?

What does “Virtual” mean?

 最近の情報技術の進歩は目覚ましいですよね。
 それと同時に、”Virtual” という言葉もよく聞くようになりました。

 virtual reality, virtual currency, virtual memory etc…

 Virtualという単語は、主に情報技術の分野では、「仮想の」という意味で訳されていることが多いのですが、実は “virtual” という単語には、もともと「仮想」という意味はありませんでした。

 むしろ「実際の」「事実上の」というのが本来の意味で、「仮想」とは、全く逆の意味です。

Virtual は、「仮想」か「現実」か?

 英語では、”virtual” という単語は、「実際の」と「仮想の」という両方の意味で使われています。
 なぜ、同じ単語が、正反対の意味で使われているのでしょう?それは、言葉の定義を調べてみると良く分かります。

 英英辞典の定義を見てみましょう。

almost or very nearly the thing described, so that any slight difference is not important
Oxford Learner’s Dictionaries

You can use virtual to indicate that something is so nearly true that for most purposes it can be regarded as true.
Collins Dictionary

 どちらの辞書でも、中核となる意味は、「本物とほとんど変わりのないもの (almost, nearly)」となっています。そして、「ほんとうは違うけれども、本物とほとんど変わらないので、実際の目的には支障がない」ということが説明されています。

 「(実際は違うが)実際上の、事実上の」というのが、virtualの本来の意味です。

 つまり、本当は違うけれども現実ではこうなっている、という状態を表すための言葉なのです。

 用例を見てみましょう。

・The country was sliding into a state of virtual civil war.
・The company has a virtual monopoly in this area of trade.
Oxford Learner’s Dictionaries

 それぞれの例文の意味は。。。
 「その国は事実上の内戦に移行した」
 「その会社は、この地域において、事実上、貿易を独占している」
 となります。
 「架空の戦争」をしているのでもなく、「架空の売り上げ」をでっちあげてるのでもなく、本当に戦争をしていて、現実に市場の独占をしているのです。
 どちらの例文においても「仮想」とは、全く正反対の意味で使われています。

情報技術分野におけるVirtual

 Virtualは、本来「事実上の」という意味です。
 この単語が、情報技術の分野で使われるようになって、新しい意味が生まれてきました。

 virtual memory や virtual drive といった使われ方です。

 このvirtual memoryやvirtual driveとは、実際のmemoryやdriveではないけれども、computer上で、それと同じような機能を代替するものです。ここでvirtualは、実際は違うが、実際のものと同じように機能するものという意味で使われています。
 つまり、virtualの本来の意味である「(実際は違うが)実際上の、事実上の」という意味で使われているのです。

 情報技術の発展に伴って、このような使い方がさらに一般化して、「computer上で再現されるもの」をvirtualと呼ぶようになりました。情報技術の分野では、この訳語として「仮想」という言葉が使われるようになりました。

 先ほどの英英辞典においても、どちらも第二義としてこの意味が説明されています。

made to appear to exist by the use of computer software, for example on the Internet
Oxford Learner’s Dictionaries

Virtual objects and activities are generated by a computer to simulate real objects and activities.
Collins Dictionary

 ここでようやく馴染みのある使い方が出てきました。Virtualのこのような使い方が広まって、この第二の新しい意味においては、「仮想上の」という訳語が当てられていくようになりました。

 しかし、「事実上の」と訳す場合も「仮想上の」と訳す場合も、中核になっている意味は全く変わっていません。

 実際(現実)は違うが、事実上、ほぼ同じもの
 →「事実上の」

 実際(現実)には存在しないが、実際上、存在しているのとほぼ同じもの
 →「仮想上の」

 Virtual という単語は、修飾する内容が変わったせいで、意味が正反対になってしまいました。

 ここで「前提」と「結果」が入れ替わっているのが分かるでしょうか?
 そうです、「前提」を real として見るか、「結果」の方を real として見るかで、意味が正反対のものに変わってくるのです。

 さて。

 現実と仮想の意味がコロコロと入れ替わって、だんだん話がややこしくなってきました。
 実は、仮想と現実は、鏡の中と外の世界のようなもので、その境界は曖昧なのかもしれません。どちらも、お互いは自分にとっての鏡像で、どちらが本物かは分からない。。。

 あなたが今見ているそのケータイの画面も本当に実在しているのかどうか誰にもわかりません。。。



 なんてねっ!(ρω< )⌒☆テヘ♪