【映画ぴ評】トゥルー・グリット – 少女と老保安官が切り拓く、新しい西部劇のかたち

西部劇 Movie & Drama
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True Grit (2010)

After an outlaw named Tom Chaney murders her father, feisty 14-year-old farm girl Mattie Ross hires Cogburn, a boozy, trigger-happy lawman, to help her find Chaney (Brolin) and avenge her father. The bickering duo are accompanied on their quest by a Texas Ranger named LaBoeuf (Damon), who has been tracking Chaney for killing a State Senator. As they embark on a dangerous adventure, each character has their “grit” tested in unprecedented ways.

True Grit – Wikipedia

  • boozy: 大酒飲みの
  • trigger-happy: やたらと撃ちたがる
  • lawman: 法執行官、警官
  • avenge: 復讐をする
  • bicker: 口論をする
  • senator: 上院議員
  • embark: 乗り出す
  • grit: 気概
  • unprecedented: 前例のない

Review

 西部劇の名作といわれるジョン・ウェイン主演の『勇気ある追跡』(1969)のリメイク作品。

 コーエン兄弟が監督し、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めた。
 2010年版『トゥルー・グリット』は、ジョン・ウェイン版の単なる再演ではなく、現代的な価値観と映画的感性によって再解釈された異色の西部劇である。

 物語の軸は、父を殺された14歳の少女マティ・ロスが、粗野で飲んだくれの保安官コグバーン(通称ルースター)と、誇り高きテキサス・レンジャー、ラ・ビーフの二人に仇討ちを依頼し、三人で追跡の旅に出るというシンプルなものだ。しかし、その表層の単純さの裏には、人物の信念の違いや、道徳観・正義感の揺らぎといった、複雑で多層的な人間ドラマが織り込まれている。

 特筆すべきは、主人公が14歳の少女であるという点だ。彼女は決して「守られるべき存在」として描かれるのではなく、冷静で聡明、時に大人を圧倒する強さと交渉力を持ったキャラクターとして描かれる。これは従来の西部劇における女性像とは一線を画しており、物語に現代的な視点を導入する上で極めて効果的だ。

 また、本作の登場人物たちは誰一人として「完全な善人」ではない。コグバーンは過去に問題を抱えた粗暴な男であり、ラ・ビーフも誇り高いが頑固で空回りすることがある。マティですら、その正義感が時に独善的に見えるほど強烈だ。こうした三者三様の価値観の衝突が、映画に深みと緊張感を与えている。

 映像も美しく、荒涼とした西部の風景は物語の孤独と苛烈さを際立たせており、撮影監督ロジャー・ディーキンスの仕事は賞賛に値する。音楽もまた、西部劇的な勇壮さを排し、静謐で叙情的なトーンで物語に寄り添っている。

 最終盤には予想を超えた展開と、静かな感動が待っている。単なる「復讐の物語」ではなく、時間とともに失われていく「何か」への哀悼の念が、じわりと心に残る。勧善懲悪でも、英雄譚でも、人情話でもない。だが、そのどれとも違うからこそ、忘れがたい余韻を残す作品に仕上がっている。

 本作の真の原動力となっているのは、やはり主演のヘイリー・スタインフェルドだろう。撮影当時わずか13歳とは思えないほど、彼女はマティ・ロスというキャラクターに驚くべき説得力を与えている。父を殺された少女が、正義と信念を胸に大人たちに立ち向かう姿には、単なる「子どもらしさ」や「かわいらしさ」を超えた緊張感と強さがある。虚勢を張りながらも心の奥にある不安や怒りを、表情や語調の微細な変化で巧みに表現しており、その演技力にはただただ驚かされる。アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたのも納得の熱演であり、まさに本作の「魂」と言える存在だ。

 一方で、保安官コグバーンを演じたジェフ・ブリッジスもまた強烈な印象を残す。荒れた風貌に、酒と孤独の匂いを漂わせるその姿は、いかにも「老いた西部の男」であり、過去の栄光にしがみつくような不器用な生き様が滲み出ている。ただ、その南部訛りは一部でやりすぎ感もあり、実際にセリフが聞き取りづらい場面が多々ある。これは日本の観客だけでなく、アメリカの観客の間でも話題になったようで、「字幕なしでは何言ってるか分からない」とツッコミが入るほど。しかし、逆にそれが彼の個性としての「クセ」や「哀愁」を際立たせているのも事実であり、意図的な演出であったことは間違いないだろう。

 こうして見ていくと、『トゥルー・グリット』は、西部劇という古典的なジャンルに、新しい命を吹き込んだ作品であることがよくわかる。型にはまらず、それでいてジャンルの魅力を損なうことなく、人物描写を丁寧に積み重ねていく。14歳の少女と老いた保安官という、異質なバディの旅路が、最終的には深い余韻を伴う成長と喪失の物語へと昇華していく。その過程を支える俳優たちの力が、作品全体の厚みを何倍にもしていることは疑いようがない。

・アメリカ人すらも困惑するジェフ・ブリッジスの南部訛り↓

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