【映画ぴ評】Mortal Engines (2018) – 移動都市は、なぜ大コケしたのか?

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Mortal Engines (2018)

移動都市 / モータル・エンジン

【見る前】
 おお!覆面の少女主人公カッコいい!
 ヒューゴ・ウィーヴィングが出てる!この人の出演作品にハズレはないっ!
 ピーター・ジャクソンが監督!?『The Lord of the Rings』の人じゃないか!
 こりゃ、見るしかないっ!

【見た後】
 。。。この主人公の性格、支離滅裂になってません?
 ヒューゴ・ウィーヴィングが。。。あんな無思慮で浅はかな役をやるの?知性ある悪役をやらせたら右に出る者がないと言われている彼が。。。こんなヒューゴ・ウィーヴィング、見たくなかった。。。
 ”Peter Jackson Presents”
 ん?ぷれぜんつ??
 あれ?監督、ピーター・ジャクソンじゃないっ!ダマサレタヨ!

超大作が盛大にコケた理由とは?

 ——1億ドルの野心作がなぜ失速したのか?

 ピーター・ジャクソンが関わった作品というだけで、大きな期待を抱いてしまうのは、ある意味仕方のないことだろう。『ロード・オブ・ザ・リング』で現代ファンタジー映画の金字塔を打ち立てた彼が、次に選んだ題材が、フィリップ・リーヴの人気SF小説『移動都市』だった——。

 1億ドルもの巨額予算を投じたこのプロジェクトは、壮大なビジュアルとスチームパンク的な世界観で話題を呼んだものの、興行的にも評価的にも、思うような成功を収められなかった。仮にピーター・ジャクソン本人が監督していたとしても、作品の評価が大きく変わったかどうかは、正直疑問が残る。

 なぜ、この“超大作”は盛大にコケてしまったのか?
 その理由を少し考察してみたい。

海外での評価は?

 日本のレビューでは、特に厳しい声が多く、「消化不良感」「説明不足」「キャラクターに感情移入できない」といった意見が目立った。確かに、観終わった後にどこかスッキリしない“モヤモヤ感”が残るのは否めない。

 海外では賛否両論という評価が多いが、その「賛」の多くは原作ファンによるもので、映画そのものの出来を評価しているとは限らない。一方で、批判的なレビューは総じて冷静で論理的。物語構成の不自然さや、人物描写の薄さ、急ぎすぎた展開など、指摘は的を射ている。

 海外の評価をここでいくつか紹介してみたい。視聴後のスッキリしないモヤモヤ感の理由が良く分かると思う。

ネタバレ注意!Spoiler Alert!!

Epic failure by Peter Jackson, characters are completely underdeveloped, storyline moves way too fast, extremely cheesy plot twists and terrible anticlimactic dialogue. Nothing about this movie ever draws you in and makes you feel emotionally connected, Jackson tried to fit what should have been a 4 hour movie into 2 hours. Each characters story is only briefly told and the viewer is forced to fill in the blanks with their own imagination.
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 一番多い批判がこれ。「世界観の説明不足」と「人物描写の浅さ」だ。観客は、理解しづらい設定や唐突な展開を、自分の想像力で補わなければならない場面が多く、物語に深く入り込む前に置いてけぼりにされてしまう。

Started off as a good movie for about 10 minutes. Never explained why they had to be in moving cities. No character development whatsoever.
(…)
This could have been so much better. I believe they must have cut up the rest of the missing pieces for time. Should have ran a 4 hour movie and did some development.
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 SF映画の難しさは、まず観客に未知の世界を納得させる説明が必要なところだろう。説得力のある世界観の構築、その中で生きる人物の背景描写、そしてそこから導かれるストーリー。このすべてが噛み合ってこそ、良質なSF作品は成立する。

 ところが『移動都市』では、それらが全体的に不足しており、物語の核に届く前に雰囲気だけで走り抜けてしまった印象だ。
 本来なら、しっかりと時間をかけて描かれるべき設定や背景が、2時間という枠に無理やり詰め込まれてしまった。そのため、物語の根幹となるドラマや人間関係に説得力が出ず、感情移入が難しくなってしまっている。

I’m a big fan of scifi, fantasy, and post-apocalyptic films but my wife and I couldn’t get over how terrible this film was.
– Not a single likable character
– Awful dialog
– Predictable plot
– Too many “action” scenes (usually a sure-bet sign of a bad film)
– Lots of “wow, that’s convenient” moments.
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 次に多い批判は、実も蓋もないけれど、話がつまらん、というもの。登場人物には魅力が乏しく、会話もどこか薄っぺらい。展開には新鮮味がなく、「どこかで見たことがあるような場面」が続く。さらに、ご都合主義的な流れが多い。。。
 Lots of “wow, that’s convenient” momentsという表現は、ほんと面白いなぁ。

The opening scene, I was thinking “Wild Wild West” meets “Mad Max.” and later I had to toss in “Star Wars” and Monty Python’s “The Crimson Permanent Assurance.” seriously.
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 この批判も多い。他作品の継ぎはぎ感。
 前半は「Mad Max」、中盤は「Terminator」、後半は「Star Wars」。まさか、Death Starの爆破場面と “I’m your father” Scene が出てくるとは思わなかった。これにはさすがに笑ってしまった、という人も多いはず。
 一方で、ジブリ作品を彷彿とさせる描写もあり、「ハウルの動く城」や「ラピュタ」「ナウシカ」を連想させる場面もちらほら。これは単なる模倣というより、共通のスチームパンク的ルーツを持つがゆえの似てしまう必然性もあるのかもしれない。むしろ宮崎駿作品自体が、海外のスチームパンクに強く影響を受けているので、ある意味、逆輸入的な構造とも言えるだろう。

参考
スチームパンク – Wikipedia

A “steam punk” themed movie with very good special effects and a VERY borrowed story line (I won’t spoil it with examples). The action is non-nonsensical and the theme is peppered with subtle leftist-type social leanings and racism (all of the “bad” people are mostly of European decent and want to destroy all of the “good” people who are mostly not of European decent).
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 一部では、「人種差別的」「政治的に偏っている」という批判も見受けられた。しかし、これはやや穿った見方かもしれない。物語自体に政治的なメッセージ性はあまり感じられず、むしろ目立つのは中国市場に向けた過剰な配慮だ。

 たとえば、善良で道徳的、つつましく生き、侵略者に対しても寛容な、まるで仙人のような中国人キャラクターが登場するシーンなど、「そこまでやるか?」と感じるほどの“忖度”ぶり。一部では「●近平をモデルにしてるのか?」と皮肉る声まで上がるほどだ。

 そして最後に、観終わったあとに残るあのモヤモヤ感——。

 それはやはり、ストーリー全体に漂うご都合主義に尽きる。唐突な展開、因果関係の弱さ……どこを取っても、「うーん、都合よすぎない?」と感じる場面が多すぎた。

 まさに頭の中に浮かぶのは、
 “Wow, that’s convenient!!”

「惜しい」からこそ批判したくなる

 ここまで批判的な評価ばかり紹介してしまったが、決して「ダメな映画」とは思っていない。「つまらない作品」と一蹴するには、あまりにも見どころが多い。

 映像は本当に素晴らしい。移動都市のビジュアルは圧巻で、スチームパンクの魅力が全開。世界観、アクション、そして一部キャラクターの存在感は、決して凡庸ではない。特にシュライク(ターミネーター風のキャラクター)が登場するシーンは、ゾクゾクするような興奮があった(ただし、あっけなく退場してしまうのが残念だったが)。

 もしこの作品を前後編の二部作として構成し、原作に忠実な形で、世界観を丁寧に描いていたら──。そう思わずにはいられない。実際、原作は全4部作。映画でもその広がりを活かせたはずなのに、1本の作品に詰め込みすぎたことで、世界観もストーリーも中途半端になってしまった。

 良作か、駄作か。判断は、ぜひご自身の目で確かめてみてほしい。

 少なくとも、シュライク(通称:ターミネーター)は、文句なしにカッコいい!

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