【映画ぴ評】ソラリス – 記憶と贖罪の宇宙劇 Solaris (2002)

space Movie & Drama
Articles

Solaris (2002)

The film is a meditative psychodrama set almost entirely on a space station orbiting the planet Solaris, adding flashbacks to the previous experiences of its main characters on Earth. Clooney’s character struggles with the questions of Solaris’ motivation, his beliefs and memories, and reconciling what was lost with an opportunity for a second chance.

Solaris – Wikiedia

  • meditative: 瞑想的な
  • psychodrama: 心理劇
  • orbit: 軌道を周回する
  • flashback: 回想
  • struggle: もがく
  • reconcile: 和解する

Review

*Spoiler Alert!! ネタバレ注意!

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による2002年の『ソラリス』は、アンドレイ・タルコフスキーによる1972年の傑作『惑星ソラリス』の再映像化作品。むしろ、SFというジャンルの外縁を押し広げ、観客に「心の迷宮」とも言える静謐な心理劇を突きつける、極めて内省的な映画体験となっている。

 物語の舞台は、惑星ソラリスを周回する宇宙船という密閉空間。登場人物もわずか4人という限定的な構成のなかで、物語は会話と記憶の断片、そして沈黙によってゆっくりと進む。観客は、華やかな宇宙戦争や目新しいテクノロジーとは無縁の「SF」世界に連れていかれ、代わりに人間の心の奥底に潜む喪失と悔恨を凝視させられる。

 惑星ソラリスには、奇妙な力がある。人間の深層心理に触れ、記憶や願望を「実体化」させて見せてくるのだ。ジョージ・クルーニー演じる主人公クリスは、自殺によって妻レイアを亡くしていた。だが、彼は宇宙船の中で、惑星ソラリスが見せるレイアの幻影と再会する。クリスは彼女が「幻」だとわかっていながらも、彼女と再び暮らすことを選ぶ。

 この選択は単なる願望の肯定ではなく、むしろ「現実」の放棄という形での贖罪と見ることもできる。過去への責任をとるかのように、彼は幻想の中に身を沈めていく。

 こうした展開は、SFファンにとってはやや肩透かしだろう。ソラリスとは何なのか?この惑星に宿る知性の正体や科学的謎には、ほとんど焦点が当てられない。それどころか、舞台装置としてのソラリスは、主人公の心象風景を映し出す鏡にすぎないように扱われる。つまりこの映画は、心理劇であり、極めて静かな内省のドラマなのだ。

 その意味で、これはSFというジャンルの枠組みを借りながら、人間の「記憶」と「愛」と「罪の意識」を掘り下げる、哲学映画である。だからこそ、タルコフスキー版を愛する人々にとっても、本作はあらためて「問い直す」映画となりうる。宇宙の神秘を解き明かすことではなく、人間の内面を凝視することに主眼を置いた本作は、観る者自身にも静かな問いを投げかける。

 我々は、現実を生きているのか。それとも、望んだ記憶の中にすがっているだけなのか——。

タイトルとURLをコピーしました